細かすぎて伝わらない契約書選手権

契約書のニッチなあれこれ

細かすぎる振込手数料規定

支払条項に振込手数料規定入れてますか?

振込手数料に関する規定はなくても困らない派(特段の定めがなければ民法485条で弁済費用は債務者負担だから)なのですが、記載しておくと経理処理の時にわかりやすいから、どうせなら書いておこうかなということが多いですかね。

むしろ、最近は振込手数料受領側負担の特約を入れる/見るケースがめっきり少なくなったという。

駆け出しの頃に振込手数料受領側負担だったのに、うっかり甲乙逆にして記載しちゃって、後で訂正の覚書作るはめになったこともありましたけど、定型的なところの甲乙逆パターンはうっかりしやすいですよね(自己弁護)。

振込手数料規定の記載は「~を支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。」みたいな記載が定番でしたが、徐々に横着というか、「~を支払う(振込手数料支払者負担)。」くらいでも文字数少なくていいのかなと思ったりしています。

細かすぎるライセンス料不返還条項 その2

ライセンス料不返還条項に対する修正要望には、もう1パターンありまして、
「ライセンス料を間違えて多く支払ったときに返してもらえなくなるじゃないですか」
なんて理由を付けられたことも。

ですが、これはさすがに残念と言わざるを得ませんよね。

契約によってはライセンス料の計算式が複雑なこともありますし、人間だから処理を間違えることはあるかもしれないですけど、支払側のミスを堂々と主張されるとちょっと受取側も「支払側のミスが前提の話で、なんでそこまで言われなきゃいけないの」という感情を持つかもしれません。契約担当者も人間ですから。

それよりは、「ライセンス料に過払いが生じた場合(※過払いの理由はあえて言いませんが)、過払い部分は不当利得、すなわちライセンス料ではないものとして、不返還条項の適用対象外という認識でいいですよね?」という方向からアプローチしたほうが、受取側としてもいくらか受容のハードルが下がるんじゃないかと思うわけです。

というわけで、ライセンス料の不返還条項を見かけたら、正面から攻略するのではなく、搦手から攻めてみるといいんじゃないでしょうか。

細かすぎるライセンス料不返還条項

時々、自社からライセンスを許諾する契約を書くときに、標準装備として「一度受領したライセンス料はいかなる場合も返還しない」という条項を入れるんですけど、これが結構な確率で修正のご要望を受けたりします。

「許諾側に債務不履行があった場合においては当然返還されるべきところをけしからん」と。

そうご指摘いただく気持ちもよくわかります。だって見るからに一方有利に見える条項ですもの。
とはいえ、こちらにもそう書きたい背景はありまして、「許諾側に債務不履行があったら、返金が妥当と考えておられる部分を含めて、債務不履行責任に基づく賠償請求は粛々と受けますから(応じるとまでは明言しないけど)、返金構成はご容赦いただけないか」とお返しするのがマイ定石です。

お金もらう側の契約で気を付けないといけないことのひとつに「いつ、受領したお金から不確定要素が消えるのか」というポイントがありまして、不確定要素=返金可能性があるうちは確定的な売上として扱えなくて困る…というのを以前に経理部門の人から聞かされたことがあるのです。

というわけで、許諾側としては返金じゃなくて賠償なら、売上としては確定させられるので、なんとかそっちでお願いしたいということになるわけです。
断じて「損害賠償ならワンチャン争えるかも」みたいな無粋なことは考えてなくてですね。このカシオミニを以下略。

逆に、こちらが被許諾側の場合は、ポジショントークだとしても相手の内情と許容可能性を考えると、不返還条項に真っ向勝負を挑むのは割に合わないので、賠償請求ベースで、頑張っても違約金(としての返金枠確保)+損害賠償構成までではないでしょうか。

細かすぎる当事者の記載

契約相手が個人のクリエイターだったりすることがあるじゃないですか。
で、たまに当事者名入れるところに変名だけを記載されていることもあるじゃないですか。

契約書のお約束としては「実名表記」であって、でも、実名だけだと後で「誰だっけ?」ってことになるから…ってことで、

 【変名】こと【○山○子】

みたいな記載に落ち着くんですが、意外と取引部署には浸透しないんですよね。
法務側も定形フォーマット使って締結された後で、なにかのきっかけで知るという…。

個人は実名と住所で特定する…はずが、肝心の実名を取引部署は把握していなかったりなんてことも。

ちなみに、自分が目撃した中で一番頭抱えたのは「氏名は変名のみ記載、住所は私書箱」という契約書。
もうこれじゃ誰と取引しているか全くわからなくて、フリマアプリのほうがまだ運営が個人情報把握しているだけマシかなっていうレベルですよね。
他社さんともそれで契約締結できていたのだとしたら凄いの一言。

細かすぎる税処理の記載

源泉徴収の絡む契約金額の記載をされた方ならわかっていただけると思うんですが、「源泉税別」の「別」ってなんですかね?

「消費税等別」の「別」は「含まれていません/別途支払い」の「別」だってわかりやすいからいいんですけど、その調子で取引部署の人が「源泉税別です」って言ってこられるとすごく悩ましいじゃないですか。
「別途控除します」の意味だと思ってドラフト作って進めたら、取引先から「別途グロスアップします」のつもりだったって、そんな脱力する話も一度や二度ではなく。

まあ、ビジネスは交渉事ですから、税引き後の金額で合意してきたっていうのならそれは致し方ないことかもしれませんが、しかし、契約書として記載する以上、そして正しい税額を算出する以上、税引き前の金額を契約金額としなければならないのであって、税引き後の○○万円に(消費税・源泉税別)なんて書いてはほしくないのです。

細かいこだわりと自覚しつつも、税引き前の□□万円に(源泉徴収に係る所得税等控除前の額。消費税等別)と書きたいものです。

もっと細かいことを言い出すと、「源泉税」という税はなく「所得税」の扱いだから、とか、「所得税等」の「等」は復興特別所得税のことだから、とか始まるのですが、さすがに取引先からのドラフトだったらそこまで赤ペン先生はしない…はず…。

そういえば、消費税も「消費税別」派のところと「消費税等別」派のところがありますね。
自分は「地方消費税もあるから等をつけなさい」という流派で修行したので後者が染み付いていますが、どちらが多数派なんでしょうね。

細かすぎる自動延長条項 その2

自動更新条項と自動延長条項、あなたはどちらを多く使いますか?

どちらを多くってのは各社の取引形態にもよるでしょうから、あまり適切な問いではなかったですね(反省)。

ただ、体感としては「更新」がやや多いかなという気がしますが、同時にそれほど使い分けられていないのかなとも思います。
更新でも延長でも結局1年延びるんでしょ的な感じですね。

一度、「ライセンス契約(※許諾料の最低保証部分先払い)を自動更新にしたら、最低保証おかわりになるんですか?」と聞かれて「ん?」となりまして、「更新」というからには既存の契約と同条件の契約がもう一度締結された扱いになるのだろうから、更新期間に応じた最低保証がおかわりされても文句は言えないかも…と思ったんですよ。

本当に別契約と判断されるのか、というところはいまひとつ自信が持てなかったんですが、相手方から「延長じゃなく更新と書いたということはそういうことだろう?」と主張されたくもないので、「間違いのないように自動延長と書いておきましょうか」と進めた次第です。
相手方の思惑がそれと違ったということなら締結前にわかっておいたほうがいいですしね。

もちろん、上記のケースはこちらが許諾料を支払う側だったのでそういう対応をしたのですが、受け取る側の法務だったら「更新にしておけばおかわりできますよ」とささやいただろうことは容易に想像できます。
ただ、騙し討ちみたいになると揉めるので、おかわりを要することを明確に書ききらないのはよくないですが。

細かすぎる自動延長条項 その1

法務の仕事を始めた頃、自動延長条項がソラで書けるようになると、チュートリアルが終わったような感覚がありましたが、自分だけですか?

 

契約書における「いずれ」の使い方がわかりやすい典型が自動延長条項ですよね。

「いずれからも」と「いずれかから」を正しく書き分けないといけないうえ、これに「異議の申出がある/ない」を組み合わせると、あっという間に新人をパニックに陥れることができてしまいます。

 

【正しい組み合わせ】

① 甲乙いずれからも + 異議の申出がない場合

② 甲乙いずれかから + 異議の申出がある場合

 

①は誰も異議を述べない場合で、一般的な自動延長条項によく見られます。

②は逆にどちらかが異議を述べた場合で、契約関係の解消に向けた場合に遣いますかね。

これが逆に組み合わさると、なんとも残念な記述に…。 【残念な組み合わせ】 ③甲乙いずれかから + 異議の申出がない場合 ④甲乙いずれからも + 異議の申出がある場合 ③は一方が異議を述べても他方が異議を述べない場合はそのまま進行してしまいますから、異議を述べたい側にとっては事実上合意で止めないといけなくなってしまって旨味がありません。 ④はというと、全員「異議あり!」で収拾がつかないですね。 若手にきっちり覚えてもらうことに越したことはないとは思うものの、そもそも「いずれからも」と「いずれかから」が紛らわしいので、「甲乙双方とも」と「甲乙の一方から」って書くようにしたら間違う余地が減るのかも。